Flaneur, Rhum & Pop Culture

「イチローズ・モルト&グレーン・No.4077」で新年を祝う
[ZIPANGU NEWS vol.143]より

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 新年2016年になっても、ウイスキー価格と人気の高騰は収まりそうもない。ここで言うウイスキーとは、スコッチ・ウイスキーと日本ウイスキーのことで、元祖アイリッシュ・ウイスキーやカナディアン・ウイスキーはおろか、あれほど日本で人気高かったバーボン・ウイスキーに今やとって替わった状況なのだ。<酒は文化である>と言った時、世間は国内の日本酒や焼酎を想定しては言わない。諸諸のスピリッツ類もあるが、やはり、国際市場のスコッチ・ウイスキーを指して言う場合が多い。ところが近年、ここにジャパニーズ・ウイスキーが参入してきたのだ。
 俺はバーの店主でもある。しかも、40年以上やっている。<酒は文化である>に関しては、大いに語りたくもあるし、能書きの多少は身に備わっているようだ。ここ2、3年で値段が倍近く高くなり、ウイスキーの入手困難状況は続いているのは確かだ。「人気に目を付けた、味も分からない中国人が大量に買い占めているからだ」とか、したり顔でその原因に言及するご仁も居るが、確信は持てない。いわゆるブレンデッド・ウイスキーは今も安いけれど、それは量産が約束されているからだ。そのブレンデッド・ウイスキーにしても、世界市場も小さく量産が押さえられていた60年代や70年代、80年代までのものは、同じ今のブランドと飲み比べると、歴然と旨さが違う。量産は確実に質を落とす。バーにふらりと寄って「ホワイトホース一杯!」などと気楽に言うと、とんでもない金額を請求されることになるかも。
 今年、建設計画が予定されているウイスキー蒸留所が、堅展実業の北海道厚岸蒸留所、木内酒造の茨木蒸留所、ガイヤフローの静岡蒸留所、宮下酒造の岡山蒸留所と4カ所もある。既に生産活動している江井ヶ崎蒸留所、信州マルス蒸留所、軽井沢蒸留所などなど、世に言う「クラフトウイスキー」蒸留所はいくつ数えるのだろうか? NHKのTVドラマ『マッサン』でも描かれた通り、ウイスキー造りは聖なる世界、かつ年数と辛抱の世界が待ち受けているのだ。市場を当て込んだ事業参入などという考えでないことを祈るばかりだ。埼玉県羽生で祖父が樽詰めしたウイスキー原酒を、散々な苦労の末、瓶詰めして立ち上げた、秩父蒸留所の「イチローズ・モルト」に、追いつけ追い越せの現象が透けて見える。
 2015年5月、「イチローズ・モルト&グレーン/No.4077」がやって来た。
 2015年1月には、店の40周年記念イベントは止めて、記念ボトルを作ることにシフトして焦っていた。実際の40年周年のただ中だったからだ。
 スコットランドならアイラ島のジム・マキュアン、日本なら「イチローズ・モルト」こと、ベンチャ−・ウイスキーの肥土伊知郎の創るウイスキーの味と酒造りの姿勢に共感していたので、先ず、イチローズ・モルトに樽を譲ってもらえないかと直接電話をした。その場では返事はもらえなかったが、すぐに社長の肥土伊知郎は「一樽用意しましょう」と決断してくれた。
 2004年9月に、先代の「羽生モルト」原酒で、「イチローズ・モルト」を立ち上げた時、肥土伊知郎は自ら「ボトル」を抱えて、下北沢の「レディ・ジェーン」にやって来た。そうやって一軒一軒行商をやっていたのだ!後輩の「カーライル」のオーナーが結婚式を挙げた時などは、お土産が「イチローズ・モルト」のミニチュア壜だったので、偉そうな客だった俺は、新郎の言われるままに、数本拝借した記憶もあった。今回、そんな事もあったと、肥土さんと数年振りに再会して笑い話に花開いた。そんな関係が切り結んだ特別配慮になったのだと、独り勝手の思っている。
 樽を選ぶのや諸々の行程作業があり、その後壜詰めに掛かるので、1月の40周年月が大幅に遅れて、入荷が5月になった。その間、ブランド・アンバサダーの吉川由美と、細かな進行手続きを決めていった。大兄&朋友(ぽんゆう)の黒田征太郎にラベルの絵&デザインを持ちかけていた時、「一樽で250本は取れます」と、吉川アンバサダーに言われた時には吃驚した。一本いくらになるのかはまだ決まってなかったが、いずれにしても金額は相当になるし、それより一介のバーの記念ボトルに、そんなにお客が飛びついてきてくれるとは思えなかった俺は、信濃屋のバイヤーに販売の協力を相談した。これまた、これまた古い付き合いの信濃屋の社長に快く引き受けて戴いた。人の出会いと下北沢の街の出会いに感謝した。
 残り数本となった「Ichiro's Malt&Grain LADY JANE 40th Anniversary BOTTLE」とともに新年を迎えた。<天使の分け前>ならいくらでも差し上げようが、一過性のブームで掻き回されて終わりという、日本の悪しき特性はご免被りたい。