Flaneur, Rhum & Pop Culture

<八百万の神>のしもべが思うこと
[ZIPANGU NEWS vol.136]より

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 去る5月下旬の或る早朝、テレビのスイッチを入れると、ワールドニュースで「景気が冷え込んでいてデフレ状態を脱却する目前の課題を抱えながらも、イギリスの首相としてはアイルランドとの和解への道は推し進める必要があるのです」みたいなことを言っていた。そうなんだ、そう言えば数年前、エリザベス英国女王が北アイルランド訪問を決行して、遂にそうなのか!と俺を吃驚させたことを思い出した。
 2011年5月、エリザベス女王はアイルランド独立後、英君主として初めて訪問して愛蘭人を驚かせ、自国民の怒りを買った。愛蘭の英国からの独立(自由国?)は1922年だが、北愛蘭の6州は英領帰属のプロテスタント多数派と、独立志向のカトリック少数派が争い、北愛蘭は切り離されて英領のままで今日に至っている。今の時代、<テロ>と言えばタリバンだ、アルカイダだ、ISらが世界の悪者になっているが、地球上の東西南北の国々で、反戦闘争、人種差別闘争、階級差別闘争などの解放運動が吹き荒れた、アメリカが起こしたべトナム戦争下の1960年代から、北愛蘭では愛蘭独立派の少数のカトリックと、英国帰属派の多数プロテスタントは激しい戦闘を70年代、80年代、90年代とテロの応酬を重ねた。世界は<テロ>と言えば、北愛蘭の戦争を指していた。多くの映画にもなっていて、『マイケル・コリンズ』『父の祈りを』『ボクサー』『麦の穂をゆらす風』などの映像が浮かんでくる。
 2012年6月、次にエリザベス女王は自国領のその北愛蘭を訪問して、友好の手を自ら差し出した。<テロ>を主導してきたIRA(アイルランド共和国軍)と共闘している、北愛蘭自治政府の過激派シン・フェイン党のマーティン・マクギネスも、ダブリンで一年前は拒否した女王の手を今度は握り返したのだった。
 2014年、英国の友好行為に答える形で、遂にマイケル・ヒギンズ大統領は、英国の国賓待遇としてロンドンに赴き、ウィンザー城で大晩餐会のもてなしを受けたのだった。先の選挙を終えた保守党だろうが労働党だろうがへこたれ政治家は、自国の長年の不景気の一原因になっている愛蘭問題に乗り出した、女王の友好の道をお綺麗にお掃除するしか脳がないのだ。「このウィンザー城は1000年前に作られました。この間、両国はさまざまな歴史を経験しましたが、この城はこの日に大統領をお迎えするべく1000年待ち続けていたのです」と。こんな嘘も歴史も喝破する威厳に満ちた言葉は、ホワイトハウスの安倍首相といえども吐けるものではない。
 時に英国は「グレートブリテン&北アイルランド連合国」というが、グレートブリテンには愛蘭とどっちが長く覇権国家英国に蹂躙されてきたか分からないスコットランドがある。蘇格蘭といえばスコッチウィスキーとなるので、少し触れると、一番愛蘭寄りの西にアイラ島がある。そこのブルイックラディ蒸留所のマスター・ディストラーのジム・マッキュワンが来日した折り、ワークショップ&試飲を体験した。ジムはイーラッハ(アイラ島っ子)らしく気だてと歯切れが極めて良かった。命をスコッチにかける姿に感心した。そして、質疑応答になって、ちょうど蘇格蘭独立の住民投票が僅差で負けた直後だったので、誰かが「ジムさんは独立派ですか、どうなんですか?」といった時、「冗談じゃない、英国政府の介入があったので負けたけど、独立を思わない蘇格蘭人は居ないよ!」と一気にまくしたてた。そしてスコッチ好きの俺は生殺与奪の元祖植民地主義国のことを思う。
 昨日の東京新聞の芸能欄に女優の神野三鈴が取り上げられていた。俺の古い知人だが中谷美紀との二人芝居だそうだ。『メアリー・スチュアート』は16世紀に蘇格蘭の女王として英国の女王エリザベス一世と競い合った物語りだ。イタリアのダーチャ・マライーニの当作品は人気らしく三回目の再演で、俺は1990年の麻美れいと白石加代子の初演をたまたま観ていた。ここでも宗教の違いが起こす血で血を洗う戦いの果て、新教のエリザベスは旧教のメアリーを断頭台に送る。芝居は勿論その間の心理劇が中軸をなす訳だが、実際、生涯結婚もせずに国のために重商主義を立ち上げて、民のためには音曲演劇を奨励してシェークスピアを生み、日々劇場に馳せ参じていたエリザベス女王には興味がそそられるが、その同時代人にジョン・ダウランドというスティングが讃える生誕452年の作曲家・リュート奏者がいたのだ。
 実はダウランド曲のアルバム『いま、君に逢いたい!』(高本一郎/ジパングプロダクツ)をプロデュースした俺は、7月に出演者と楽旅が決まっているのだが、演奏予定の教会が新教なのか旧教なのか興味なくて、とんと把握していないが非常に不安でもある。まずは、6月13日から始まる『メアリー・スチュアート』を観劇して学習しておくとするか。