Flaneur, Rhum & Pop Culture

『ユリシーズ』の企みの翼に乗って
[ZIPANGU NEWS vol.126]より

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 先月7月12日の深夜、日本のフリー・ジャズ史と共に生きてきた評論家の副島輝人の訃報を受けた。胃癌だった。17日の夕方に営まれた通夜に行くと、謹厳実直を通した気骨の人を現わす故人の笑顔の遺影が飾られていたのが印象的だった。70年代からの付き合いだったから、かれこれ40年にはなるわけで、思い出すことも多々あるがここでは控えておく。海外に窓口を開いていた人だったので、実に多くのフリー系のミュージシャンが海外進出のお世話になっていたし、著作でフリー・ジャズ史を学んでいた。そんな多くの参席者に混ざって、詩人の白石かずこ嬢を見つけた。年を尋ねると83歳だと言ったので「ああ、副島さんと一緒か」と改めて思った。合掌。
 その10日ほど前に俺はかずこ嬢に電話をしていた。2011年9月に韓国から呼んだ姜泰煥(カン・テファン)を中心として、パリから帰っていた沖至と舞踏の大野慶人のメンバーの中に入ってもらったピットインのライブ以来だった。又今秋に沖至が帰って来る予定だと連絡が入ったので、何処かで帰国ライブをやろうかということになり、任された俺は3年振りにかずこ嬢に登場願おうかと思ったからだ。電話の声は相変わらず至極元気で、俺の頼みに手帳を見ながら「ヤアヤア、面白いことやろう!」と言ってくれて、良かったと感謝したのだが、電話を切った後を心配して、俺としては再度確認する必要があり、電話では同じ繰り返しになるので、さて自宅にまで行くべきかどうかなどと迷っていた矢先だった。故副島翁には大変申し訳ないことではあるが、偶然とは言え清めの席で、先の再確認を取ることが出来たのだった。
 1992年、中上健次が亡くなり、薔薇のトミーこと富田幹雄が亡くなった傷心の8月が過ぎて秋風が吹き始めた頃、コルネットの故ブッチ・モリスや佐藤允彦、ギターのジョン・キングや坂田明の師匠だった故井上敬三先生、ベースの故吉沢元治にダンスの山田せつ子などが、入れ替わり立ち替わり店内ライブを賑わかしていた頃、又もや沖至の帰国があって、9月19日、又もや白石かず子嬢に登場願ったのだ。両人は元より知り合いでステージは何回もやっていたと思うが、俺の方も最初に白石かずこに出てもらったのは、アメリカンブラックのトランぺッター、ワダダ・レオ・スミスじゃなかったか?その後も同じアメリカンブラックのピアニスト、ロッド・ウイリアムス共よく共演して、ブラック好きの本領を発揮していた。
 9月19日、沖至が同行してきたのは、アフリカのベニン出身の黒人チャンゴ・ダイというピアニストで、パリやリオンでスティーヴ・レイシーやアーチー・シェップなどと共演経験を持つちょっとお洒落を気どる黒人フレンチだった。その後何回も共演することになるのだが、その時には金をせびって先に帰国してしまったのだ。残された沖至は帰国するお金に不自由した。友人のTBSのプロデューサーだったカポネこと副島恒次(偶然だけど輝人弟)が、俺にライブの相談を持ちかけてきたので、「わが家でライブ・パーティをしよう。会場費無しで出来る」と言うと即決となった。渋谷毅が共演快諾してくれた。後は、料理人をカポネに見つけてもらいワイン係も決めた時、突如、白石かずこ嬢から電話が来た。「大木さん、沖さんのライブをやるそうじゃない。私は呼んでもらえないの?」「いえいえ、どうぞお客で来てください」「違うわよ、詩の朗読をするのよ」「そんな!頼めないので連絡しなかった訳ですから」「行って良いかしら」「分かりました。待ってます」??当日がやって来た。
 失礼ながらわが家の造りを少し言うと、狭い敷地に1階、1.5階、2階、2.5階、3階と地下も入れると6層のスプリット(分割)式になっているので、3階に行く2.5階の踊り場に置いてあるアップライトピアノが下からでも見える位置にある。そこで渋谷毅がフリーを弾き始める。沖至が下に立ち応えて咆哮する。やがて、かずこ嬢が和紙の巻物をクルクル回しながら、『コルトレーン!・・』と朗読しつつ階段を下りてくるのだった。すぐさま、変哲の無い日常の屋内が異空間に変容した。異空間に居れば音響もピアノの調律不整も見逃され、ワイワイと盛り上がり盛り上がり終わる。後は用意された料理とワインに40人近くが処狭しと現を抜かすだけだった。1992年9月××日の一夜の出来ごと、沖やん、あの時あんなに楽しい時間を過ごせて、飛行機代もゲット出来たよね。時代が古くなるとよく見えるのかな。
 2014年9月20日(土)開演17時。『ユリシーズの秋』出演者:白石かずこ、沖至、太田惠資、八木美知依、さがゆきのメンバーが、下北沢アレイホールに出現します。どんな混沌が生まれるのだろうか?見納めになるかもしれません。是非、何処かに、燃える秋に、ユリシーズに、連れてってもらいましょうよ。