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闇の夜に灯火を失う
VOL.68

 4月から清酒の級別制度が廃止される。かつて酒類制度審議会が「酒にあらず」と評した吟醸酒が二級酒として出回ったからだ。米を精白した長期低温醗酵で仕込む吟醸酒は、酒蔵と杜氏の魂だ。生産コストが数倍かかるので税率の低い二級酒で出荷したのだ。今後、地震の味覚で選ぶ訳だが、その案内は「吟醸」「純米」「本醸造」「アル添」及び米の産地、精白度、日本酒度別に表記される。お上が決めた味を云々してきた級別制度は崩れたが、元来等級好みの日本人が永年支えてきた制度ではあった。
 かつて上、中、初級に分れていた国家公務員制度が1〜3種と呼称は変ろうが、1種はキャリア組と云われ東大、京大卒が中央省庁で出世し高級官僚に昇って行く制度だが、この季節、官僚予備軍の国立大学の合格発表があった。共通一次試験は分離分別方式で、学部によって傾斜配点方式と訳が分らないが、ともかく優れた生徒を呼び込む大学側のエゴだ。こうして〈揺篭から墓場〉迄、等級を追って試験の海で泳ぎ疲れるのだが、“級別(ラベル)の無い美酒”をいつ選ぶことができるのだろうか?
 C・ウィルソンは「殺人者は自分の便宜を絶対的価値にかえている(正常という幻想の)大部分の人より先に選んでいる」と一級殺人者を実存主義的に評しているな。

(一級和尚)

(1992.3記)