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魚も喰われて成仏す
VOL.61

 第三次産業が占める比率が肥大化し、自由経済を後退させる米国が、鮨ダネにされる最高級のクロ鮪(ホン鮪)の捕獲規制を決定し、来年三月の野生動物を保護するワシントン条約で取引禁止提案をすると云う。陸の米を締めつけ、海の鯨を制限し、イルカで非難し、今度は鮪だ。例の湾岸でピンポイントと称する誤爆で、原油の流出やミルク工場爆破による大量の生物破壊を行った国が、相も変わらず鉄面皮なプラグマティズムを押しつける。自然界でイルカや鯨を主要なタンパク源としている人々(五島や壱岐等)の生活権は無視か。“大群の牛を鮮血に染めた感動のテキサス”等と野暮は云うまい。
 来春は鮪(トロ)なしのネタに与るのかと口惜しく思っていると、「例年の十倍東京湾でマ蛸の豊漁」と新聞記事。江戸前と云えば、蛤に赤貝だ。江戸っ子、小津安二郎の名作『秋日和』で鮨屋の主人と旦那の会話。「旦那、ハマ好きですね」「ああ、美味しいね。蛤は虫の毒、チュウチュウ蛸かいな」「蛸、お付けしますか?」「タコはもう出来てるんだ。蛤だよ柔らかいとこ、蛤は初手か、あッ、後赤貝頼むよ。」―こちとら粋筋じゃねんだ、艶っぽすぎて身がもたねェ、鮪もって来い

(築地玉米のぼん)

(1991.8記)